映画『硫黄島からの手紙』のエンドロールを見つめながら、「この島は今、どうなっているんだろう」と思ったことはありませんか?
地図を開けば、東京から南へ1,200km。そこには確かに島があります。
しかし、そこは私たち一般人が決して足を踏み入れることのできない場所。なぜなら、あの島は今もなお、戦争の傷跡と厳しい自然が支配する「静寂の要塞」だからです。
この記事では、地図には載っているのに「たどり着けない」硫黄島の現在と、私たちがその姿に少しでも近づくための唯一の方法について、戦跡ジャーナリストの視点から解説します。
東京から1,200km。絶海の孤島「硫黄島」の正確な位置
まず、硫黄島がどこにあるのか、その正確な位置を確認しましょう。
「東京都小笠原村」という住所を聞くと、観光地として有名な小笠原諸島(父島・母島)の近くだと思うかもしれません。しかし、その距離感は想像を絶します。
東京の竹芝桟橋から定期船で24時間かけて行く「父島」までが約1,000km。硫黄島は、そこからさらに南へ約280kmも離れた場所にあります。
住所は「東京都小笠原村硫黄島」ですが、現在、住民票を置いている民間人は0人です。そこにいるのは、任務に就く自衛隊員と、工事関係者のみ。まさに絶海の孤島なのです。
なぜ一般人は行けないのか? 島を閉ざす「3つの理由」
「平和になった今なら、慰霊のために行けるのでは?」
そう思う方もいるでしょう。しかし、硫黄島は現在も「原則立ち入り禁止」です。その理由は、単なる軍事的な規制だけではありません。人が住むことを拒む、過酷な環境があるからです。
1. 国防の最前線(軍事基地)
現在、硫黄島は島全体が海上自衛隊と航空自衛隊の基地となっています。本土から遠く離れたこの島は、国防上の重要な拠点であり、訓練施設でもあります。機密保持と保安の観点から、一般人の立ち入りは厳しく制限されています。
2. 危険すぎる大地(不発弾と地熱)
これが観光地化できない最大の理由かもしれません。
激戦地であった硫黄島には、今もなお無数の不発弾が埋まっています。さらに、島全体が活火山であり、地熱が非常に高いのです。地下数メートル掘れば100℃近い熱湧き水が湧き出し、地面に座ればお尻が熱くなるほど。安全を確保することが極めて困難な場所なのです。
3. 水がない(インフラの欠如)
硫黄島には、生活に不可欠な「湧き水」がありません。かつての守備隊も水不足に苦しめられましたが、現在も状況は変わりません。自衛隊員たちは、雨水を溜めたり、海水を淡水化したりして生活用水を確保しています。観光客を受け入れるための水も食料も、この島にはないのです。
それでも島を見たい人へ。私たちが「硫黄島」に近づく2つの方法
上陸は叶いませんが、諦める必要はありません。現代の技術と、特別なツアーを利用すれば、私たちは硫黄島の姿に「近づく」ことができます。
1. Googleマップで「空から」見る
今すぐできる最も簡単な方法は、Googleマップです。航空写真モードに切り替えてみてください。
島の南端にある「摺鉢山(すりばちやま)」の独特な形や、島を縦断する滑走路がはっきりと確認できます。さらに、一部のエリア(慰霊碑周辺など)はストリートビューが公開されており、荒涼とした現地の風景を擬似体験できます。
2. 小笠原クルーズで「海から」見る
「肉眼で見たい」という方には、小笠原クルーズが唯一の手段です。
「にっぽん丸」や「ぱしふぃっくびいなす」などのクルーズ船が実施する小笠原ツアーの中には、「硫黄島周遊コース」が含まれているものがあります。
上陸はできませんが、船は島のすぐ近くまで接近します。甲板から摺鉢山を望み、船上で黙祷を捧げる——。その体験は、映画で見た光景と重なり、言葉にならない重みを感じさせてくれるはずです。
「いおうじま」か「いおうとう」か。呼び名に込められた歴史
最後に、名前について触れておきましょう。
映画のタイトルは『硫黄島(いおうじま)からの手紙』ですが、ニュースなどでは「いおうとう」と呼ばれていることに気づきましたか?
実は、戦前、この島に住んでいた島民たちは、島を「いおうとう」と呼んでいました。しかし、戦後、米軍統治下や映画の影響で「いおうじま」という読み方が定着してしまったのです。
2007年、国土地理院は旧島民や自治体の強い要望を受け、正式な呼称を「いおうとう」に変更しました。
「いおうじま」は激戦地としての名前。「いおうとう」は、かつて人々の暮らしがあった故郷としての名前。
私たちがこの島を呼ぶとき、その歴史的背景を知っていることは、とても大切なことだと思います。
よくある質問(FAQ)
Q. 遺骨収集に参加すれば行けますか?
A. 遺骨収集事業への参加は、原則として戦没者の遺族や関係者に限られています。近年は学生ボランティアの枠組みも一部ありますが、厳しい事前研修や選考があり、誰でも参加できるものではありません。
Q. 鹿児島の硫黄島とは違うのですか?
A. はい、全く別の島です。鹿児島県三島村にある「硫黄島(薩摩硫黄島)」は、温泉や孔雀で有名な観光地であり、フェリーで渡ることができます。混同しないようご注意ください。
まとめ:硫黄島は遠いが、決して忘れ去られた島ではない
硫黄島は、物理的には遠く、たどり着けない場所です。しかし、私たちがその歴史を知り、Googleマップで姿を確認し、時には洋上から想いを馳せることで、精神的な距離は縮めることができます。
- まずはGoogleマップを開いて、島の形を見てみる。
- 機会があれば小笠原クルーズを検討する。
- もう一度映画を見返して、平和について考える。
地図上の小さな点に過ぎないその島が、かつて多くの命が失われた場所であり、今も静かにそこに在り続けていること。それを忘れないことが、私たちにできる一番の慰霊なのかもしれません。
[参考文献リスト]


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