丸いお顔に赤いほっぺ、マントを翻して空を飛ぶ国民的ヒーロー「アンパンマン」。
しかし、原作者であるやなせたかし先生が一番最初に描いたアンパンマンは、私たちがよく知る姿とは全く異なる「ただの人間のおじさん」だったことをご存知でしょうか。
この記事では、初期アンパンマンの衝撃的な設定から、やなせ先生がこのキャラクターに込めた「本当の正義」という深いメッセージ、そして現在の愛らしい姿へと進化していくまでの歴史を分かりやすく解説します。
1. 初期のアンパンマンは「空飛ぶ小太りのおじさん」
アンパンマンが初めて世に出たのは、1969年に発刊された『十二の真珠』という大人向けの童話集の中の一編でした。
- 外見: 顔はパンではなく、普通の人間の「小太りのおじさん」。
- 服装: ボロボロのつぎはぎだらけのマントを着用。
- 能力: 空を飛ぶことができるが、格好良くはない。
- 行動: お腹をすかせた子どもたちを見つけては、持っているアンパンを配って歩く。
自分の顔を食べさせるのではなく、「持っているパンを配る」というスタイルでしたが、子どもたちからは「かっこ悪い」とバカにされ、時には不審者扱いされるなど、非常に哀愁漂うキャラクターとして描かれていました。
2. やなせたかし先生が込めた「本当の正義」とは
なぜ、やなせ先生はこのような泥臭く、かっこ悪いヒーローを生み出したのでしょうか。その背景には、先生自身の壮絶な戦争体験があります。
戦争中、正義だと信じていたものが敗戦によって一夜にして「悪」へとひっくり返るのを目の当たりにしたやなせ先生は、「立場や時代によって変わるようなものは、本当の正義ではない」と悟りました。
「本当の正義とは、決してかっこいいものではない。傷つくことを覚悟で、目の前でひもじい思いをしている人を助けることだ」
敵を倒すスーパーヒーローではなく、自らもボロボロになりながら飢えた人に食べ物を差し出す存在。それこそが、やなせ先生がたどり着いた揺るぎない「正義」の形であり、アンパンマンの原点なのです。
3. 人間から「顔がパン」の姿への進化
その後、アンパンマンは子ども向けの絵本として生まれ変わります。
1973年、月刊絵本「キンダーおはなしえほん」に『あんぱんまん』として登場した際、ついに「自分の顔(アンパン)をちぎって食べさせる」という、現在のスタイルに近い姿に変更されました。
当初、出版社の大人たちからは「顔を食べさせるなんて残酷だ」「こんな不格好なヒーローは子どもにウケない」と猛反対されたそうです。しかし、いざ幼稚園などで読み聞かせをすると、子どもたちはアンパンマンの自己犠牲の優しさに夢中になり、絵本はボロボロになるまで読まれました。
子どもたちが持つ「本当の優しさを見抜く純粋な心」が、アンパンマンを大ヒットへと導き、後のテレビアニメ化(1988年〜)へと繋がっていったのです。
4. まとめ
初期のアンパンマンと誕生の歴史についてまとめます。
- 初期の姿: 1969年の童話では、顔がパンではなく、アンパンを配って歩く「普通の人間の小太りのおじさん」だった。
- 込められた想い: やなせ先生の戦争体験から生まれた「ひもじい人を助けるのが本当の正義」という強い信念の表れ。
- 絵本化: 1973年の絵本版から「顔を食べさせる」設定になり、大人からの批判をよそに子どもたちの心を鷲掴みにした。
何気なく見ていたアンパンマンの裏には、やなせたかし先生の平和への強い祈りが込められています。次にアンパンマンを見る時は、少し違った視点でその優しさを感じられるかもしれませんね。


コメント